「恋ではなく、愛でもなく。もっとずっと、深く重い──」
そんなキャッチコピーがプレイ終わった今、じわじわと胸に響いています。
ニトロプラス・キラル先生が2021年1月に発売したスロウ・ダメージをプレイする勇気がないまま、ニトキラ先生が過去に発売した「咎狗の血」、以前から気になっていたparade先生の「room No.9」を続けてプレイして打ちのめされた私。
そろそろスロダメに手を出すか…怖い…まんじゅう怖い…と思っていたら、ツイッターのお友だちが「スイートプールで肉片を浴びて来なさい!」というからすでに購入済みだった本ゲームのプレイを開始しました。
日常に紛れこむ「非日常」。 誰も気づかない。ただ、自分だけが……。
主人公・崎山蓉司は、ごく普通の学生として淡々とした日々を過ごしていた。だが、ある時を境に少しずつ周囲に変化が起き始める。
突然接触してきた同級生・城沼哲雄、変わり者で有名な翁長善弥。体を苛む奇妙な苦痛と幻覚、生々しい悪夢。果たしてそれらは本当に幻なのか。そして、哲雄と善弥の目的とは一体なんなのか……。
東京都菅見区。都市郊外にある男女共学の学園・私立駒波学園を舞台に物語は始まる──。
とまあこんな感じで始まるストーリー。
もともと学園モノBLはそんなに興味なかったのですが、「主人公がなんか産んでるらしい!」と聞いて手の平を返しスロダメ発売時のセールでまとめ買いをしました。男体妊娠好きとしては見逃せない…!
以下ネタバレ含む感想です。未プレイの方はご注意を。
共通ルート
今までのプレイしたニトキラさん作品は、ドラマダと咎狗の血。どちらもBLな展開になるまでが長く、「この人たち、本当にLOVE…な関係になるんかな…」と不安な時間が長かったのですが、sweet poolは序盤からboys'loveの波動をバンバン出して来ました。
妙に絡んでくる狂人の先輩、明るくて元気な気遣い上手の友人、じっと見つめたり無言で触ってくる得体の知れないクラスメイト…おっもう主人公への矢印が出てる出てる。
苦笑いしながらもよくある展開に安堵していたのもつかの間…なんと…
主人公の蓉司は病気がちで一人暮らし。最近も体調不良で学校を休み、結婚して家を出た姉がいるものの、負担をかけたくなくて病院にもいかない。食欲もないからご飯も食べない…
……ちょ、ま、地域の福祉の方ーーーーーー!!!!!
boys'loveの波動とかなんとかいう前に、蓉司の文化的で健康的な暮らしが不安すぎる!!病院にもいけないほど金銭の不安が?!エッ!!ちょっとお!福祉の方!あそこの未成年の子を保護して!
主人公の吐き気とめまい、これはつわりにも似た症状……とか言っている場合ではない!飢餓と貧血では?!?!?!
ぽっとでの不思議な安心感のある男ではなく、姉のところに行きせめてご飯を食べるんだ!お願いだ!
という私の願いもむなしく、蓉司はストーリーがかなり進まないと固形物を食べません。初めてご飯を口にしたときは勝手に幸せでまぶたが熱くなりました。そ、そういうゲームじゃないのに……私は蓉司くんの亡き母なのかもしれない……
ところでBLの歴史を作ってきたという噂のニトキラ先生ですが、二次創作などでよくみる「なんも食べてないから胃液しか出てこない嘔吐」のルーツはスイートプールなんでしょうか?
と思ったら、フォロワーさんから「『白鳥異伝』のオグナじゃない?」とのコメントをいただきました。乙女の性癖をバキバキに捻じ曲げた児童文学の名作、勾玉シリーズ……面白いよね。
物語が進むにつれて、主人公の蓉司、メイン彼氏の人間初心者のベイビー哲雄、悪役令嬢の善弥、気の良いギャルの睦(まこと)のそれぞれのバックグラウンドや人間関係がつまびらかにされていきます。そうなるとどんどん感情移入していってしまって、これ本当にBADルートがこの先用意されているの…?辛すぎない…?などと思うようになります。
まんまとニトキラ先生の手の中で踊らされていたのです。
哲雄END1(共倒れEND)
一周目は見事に救いのないBAD ENDでした。
内なる存在の本能と理性に揺れ動きながらも(つまり私が適当に交互に選んでいた)最後に『彼ら』の呼びかけに答え『彼らを受け容れる』という選択をした蓉司。
しかしその迷いで追ってきた姫谷に追いつかれてしまい、まさに無防備な姿で哲雄とともに銃殺……
あまりにあっけないラストにボーゼンとしました。なんてこったい……
このルートのエピローグで、かつて哲雄が虐待されていたこと、それを見守っていた蓉司と哲雄の中の内なる存在を奉る「組織」。いや保護しろよ…と思いつつ、彼らは哲雄に「優秀なオス」の資質を見出すと安全な里親に預ける。本当にヒトではなく、信仰対象の繁殖のための道具なんだなあと切なくなります。
哲雄END2(同棲END)
二周目も……エッこれは……GOOD ENDではない……?
善弥たちを殺した哲雄と蓉司を追いかけてきた姫谷に追い詰められて、満身創痍で屋上からプールへと飛び込んだ二人。蓉司は哲雄を助けたいと願いながら暗転……
二年後、どうやら小さな部屋で二人暮らしをしている様子の哲雄と蓉司。哲雄の声に抑揚が……!声からしていかにも幸せが滲んでいます。
でも一方で、蓉司は?台詞には「」はなく、頭に──がついているだけ。
そして最後、「心が軽くなっていく」と言います。
おそらく、哲雄を助けた蓉司はそれこそ「おんぬし様」のような身体なのか、意識だけで哲雄に見える存在なのか。
そんな蓉司から見た哲雄の笑顔。この作品で唯一といってもいいほどまばゆいほどの哲雄の笑顔が本当に素敵なのに……蓉司……!
「自分は幸せだった。だから、どうか、哲雄も幸せになりますように。」
二人で幸せになってくれよーーーーーーー!
睦END(骨END)
思い切ってやり直して、ずーーーーーっと理性を選んだ私。
そうすると睦にカッターを突き付けられたときに、「俺か、城沼か、選んで」と問われます。
そこで理性を選ぶと睦ルートに入ります。蓉司は睦を選びます。それに対して、
「嘘つき」
という睦の一言がアッーーーーーーーーーーー!
嬉しそうなのに冷たくて、声優さんの演技に震えました。
そして時はたって二週間後、様子の変わらない睦は、学校が終わると蓉司のアパートへ……
そこには、血濡れの骨。それは蓉司だったモノ、と言われます。
アッーーーーーーーーーーー!カニバーーーーーー!
ずっと睦は「一杯食べる」「よく食べこぼしをする」という元気な男の子として表現されてきたんですよ。その流れで、「美味しそう、蓉司」と言わせて、食べちゃいたいくらい好き……を体現する。残酷……ニトキラ先生……
ちなみに、他のルートだと睦は一度蓉司のフェロモンにやられつつも、正気を取り戻すんですよね。自分のルートに入らなければ彼は無事に元の生活に戻れるという残酷さ……いやん……
哲雄ルートで必ず出てくる「哲雄も、悪い奴じゃないと思う。三人で飯食ったり行きたい」と睦と蓉司の約束のシーンはめっちゃ好きで、リピートしつつも何度も止めました。
TRUE ENDで待っているよ、三人のこと……
善弥END(人形END)
次に、ずーーーーっと本能を選択すると善弥ルートに。
自宅に監禁されて、「出来損ないのオス」である善弥に時間もわからなくなるほど愛でられます。
そのたびに肉を生む蓉司……
でも出来損ないのオスとの間の肉だから、きっと純成は生まれないんだろうな…
「俺のたからもの」
と蓉司を呼ぶ善弥。蓉司は答えることなく、人形のようなガラス玉のような目でうつろに虚空を見つめるだけ…なんも救いがないよう…
哲雄END3(融解誕生END)
哲雄END1と途中まで一緒ですが、迷わず、善弥ルートに入るところ以外を本能で選択すると出てくるEND。
姫谷に追い詰められつつも逃れ、蓉司の部屋で、儀式のような睦み合いを始める哲雄と蓉司。
「変わらないものなんてない」という蓉司の姉の言葉
「永遠って、あると思うか?」という蓉司と哲雄
「永遠なんてない」そして、「今この時を感じていたいから…」と本当に溶け合っていく二人……
傷を負った部分からコブのようなものがでて、血管が浮き出て、スチルはまるで、人間があの「肉」になっていく過程のよう。
そして、自分を見つめる哲雄の瞳に「愛に似た何かがあった」と蓉司は思います。
そう、愛ではないんです。
本能に従ってたどってきたから、このルートの二人は「内なる存在」の肉片たちの生殖本能のまま「オス」と「メス」として交接するんですよね。
このまま交わったら、お互いに死を迎えることはぼんやりわかりながら。
育んでいたはずの、「普通の人間らしい」感情や関係……情、みたいなものもありながらも、本能が勝っているんです。
そう思うと、幸せそうに見えるこのセックスもあまりに切ない。
大号泣で肉片に囲まれたセックスを見るわたし…ずびずびです。
哲雄END4(GRAND END)
他のルートをすべて攻略してから、理性より(睦ルートを回避)すると、こちらの哲雄ルートに入ります。
哲雄END2と同じくプールに入り込みますが、そこで選ばれる選択肢で「理性」を選ぶことで、「俺も、人間として生きたい──」と蓉司のモノローグ。
最後に、哲雄に名前を呼んでもらいたい、と思いながら。
そして時が飛んで数か月後、蓉司と自分の「オス」の側面のことだけすっぽり忘れた哲雄は復学します。そして無事に卒業し、養父母の家から大学に通います。ここで、ずっと哲雄がわだかまっていたらしい、養父母との関係がこのルートでは改善されていることがうかがえます。
人間関係は希薄らしく、どこか空っぽな哲雄があるとき自分の最寄り駅とは違う駅を降ります。そこは蓉司の住んでいた場所ですが、そんなの哲雄は覚えていない。
でも、突然、覚えていない誰かと過ごした高校時代のことを思い出す。
そして思わずというように小さく誰かの名前を呼ぶ。
どんな気持ちでこのエンドを迎えるのが正解なんですか…?
そんな情緒ブレブレの気持ちで今このブログを書いています……
こっから全体的な(主に哲雄の)感想
メイン彼氏であるはずの哲雄、最初はぜんっぜん好きなれる予感がせず、強引だしちゃんとコミュニケーションしろよ!と私の内なる存在が叫んでいたのですが、
蓉司の姉の「赤ちゃんってね、何かを伝えたいときは、泣くか、じっと見つめてくるの」というセリフで合点がいきます。
哲雄、人間初心者のベビちゃんなんじゃん……!
哲雄は初めは見つめてくるだけ、強引に触ってきて、助けたと思えば蓉司をレイプしたり、もう散々なんですよね。
でも、蓉司と接していくうちに、だんだん「嫌じゃないか?」と聞いてきたり、慈しむように頭を撫でてきたり、意味不明な行動をする。
そう、順番が逆なんですよ。最初はまったくしゃべらなかったのが、だんだんと自分のことや、自分の気持ちについてもしゃべるようになっていく……
スキップ機能があるとはいえ(笑)何度も繰り返し同じシーンを見させる分岐ゲームだからこそわかる微妙な変化。
そして哲雄ルートで、最後に蓉司との会話の中で、
「自分は人間じゃないと思っていた」
「お前は俺と似ていると思っていた」
「お前に近づいて、嫌がったりされて、普通の人間みたいなこと、考えているんだと思った」
という中からも、最初の哲雄はどちらかというと、「オス」として蓉司に近づいて自分のものにしたくて強引に触ったりレイプしたり見つめたりしていたけど、
触れ合っていくうちに相手が自分と似ている存在でありながら、もっと感情があると気づく。
「嫌がられたり」って結構哲雄にとっては衝撃的だったんじゃないかと思うんですよね。オスとしては、まさかメスに拒絶される、ましてや自分の行動が「意味わからない」と言われるなんて……
でも、どうしてもそのまま嫌われたままではいられなくて、慈しむようなしぐさをして、蓉司の様子をうかがいながら、触れるようになる。
この一見あべこべな行動の順番ですが、それが哲雄の内面の変化だと思うと面白いな~って思います。
蓉司に好かれたい、蓉司というメスを自分のものにしたい、という「オス」の本能からくる行動が、必然的に、人間らしい感情や行動を哲雄に芽生えさせていったのかなあ……と思うと不思議です。
そんな人間初心者哲雄を受け容れて、哲雄の慈しみに絆されていく蓉司に、「オス」の本能からくる「ものにしたい」欲求と歯、また全然別の感情を抱いたんじゃないかな、哲雄は。
グランドエンドの哲雄は、蓉司の記憶こそ失いましたが、以前はわだかまりのあった養父母と高校卒業後も一緒に暮らし(ふしぎ存在蓉司との同棲ルートでは高卒で家を出ています)、バイトや大学の人から飲み会に誘われる程度には雰囲気が柔らかくなっていると想定されます。
蓉司とのふれあいで得た「人間らしさ」がきちんと彼の中に残っているんですよね。ベイビーちゃん、ちゃんと社会に溶け込んでいる……!
それに哲雄ルートに入ると、たびたび哲雄が蓉司のことを「俺の、──」と言おうとして、口を塞がれたり、続きの言葉がうまく出てこなかったりするんですよね。
「俺の、メス」「俺の、好きな人」
ストーリーを追っていくと、どれもしっくりきません。
ただ、蓉司はグランドエンドで「最後に俺の名前を呼んでほしい」と願うんです。
記憶喪失になっても、ふと、哲雄のくちびるから最後にもれた「ようじ」という名前。
あのセリフに続くのは、
「俺の、蓉司」
なんじゃないかな、と個人的には思います。
恋でもなく愛でもなく、本能で惹かれあって運命のようにお互いを受け容れていって、好きな人というにはあまりに動物的だし、でもお互いに唯一無二になってしまったような。
だから、「俺の蓉司」であるのが、一番しっくりくるなーと個人的には思っています。他に代えられない存在。
哲雄END1(姫谷に殺される共倒れEND)では「もし、普通の人間だったら、友だちとして自分の部屋に哲雄を呼ぶこともあったんだろうか」と空想したりもします。
でも、そんなIFは存在しない。
二人の運命がクロスしたのは、皮肉にも「オス」と「メス」だったから。
普通の人間になった哲雄には、いうなれば蓉司ともう心を交わすことはできないのかもしれない……と思うとじーんと来ます。
そして哲雄END3(融解誕生END)は、一番糖度甘めなんですけど、二人は内なる存在のッ生殖本能に翻弄されていて、ここまで築いてきた二人自身の絆は彼らと一緒に溶けていってしまうような気さえします。
個人的には「本能」と「理性=人間らしさ」とすっぱりわけてしまうのはなんとなく抵抗があるのですが!(笑) でも、内なる存在の生殖本能と、二人自身の意思だと思えばいいのかな……
そうなると、やはり二人自身が築いてきたものがきちんと哲雄の中に残るグランドエンド、理性のエンドが「二人にとっての最良の選択肢」だったのかな……
だからこそ、二人の最後の選択であり、最後の場所である「sweet pool」ってタイトルなのかも。
(ちなみにグランドエンドを迎えるために唯一の本能の選択肢が「俺か、城沼か、選べよ」と睦に詰め寄られた時。ここで本能で答えさせればグランドエンドなわけですが、この本能は哲雄のことをもう嫌とは思えない蓉司の気持ちの変化だと思うとちょっと他の選択肢とはニュアンスが違うともいえます)
本能や運命というもので惹かれあった二人を、ただでは幸せにしてくれないニトキラ先生。
今やフジョシ界を席巻するオメガバースとか、ニトキラ先生に扱わせたらとんでもないことになりそうですね。扱ってほしいような、怖いような……
とはいえ哲雄と蓉司のラブラブイチャイチャが見たいし、純成くんとの幸せ家族計画だって見たいよー!!!!
そう願って、Pixivの海へと沈んできます。つらい公式にはお花畑のファンアートが傷口を癒してくれるぜ…。
何はともあれ、思ったようなハッピーエンドはひとつも得られず、呆然としながらもこう振り返ってみるとめちゃくちゃ面白いゲームでした。
ドラマダはストレートにボーイズラブでしたが、咎狗・room no.9・sweet poolと倫理規定のあるBLゲームって、なんだかボーイズラブの定義から揺るがすような関係性を描いていて、可能性が広がりますね。
この気持ち、大事にしていきたい……いやでも私は甘々イチャイチャも読みたいよ……
というわけで、スイプー先生を乗り越えた私に怖いものなどない!そろそろスロウ・ダメージをプレイしていきたいです。
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